食レポと言葉

レポーター

テレビのバラエティー番組もワイドショーも食レポのコーナーは企画から外せないようで、毎日どこかでやっている。
あまりにも同じような内容で見ているほうは食傷気味で、お腹いっぱいだ。
言葉の仕事をしている自分は、紹介されている料理よりレポーターが使う言葉の方が気になってしまうことが多い。

「ん~~ん、おいし~~い」

テレビでの食レポの90%、いや100%はこのセリフが定型文のように発せられる。しかも、レポーターは料理を大きくひとくち口に入れたまましゃべるので、言語不明瞭、絵的にも余りよろしくない。

(子どもの頃「口の中に食べ物がある時はしゃべらない!」とよく怒られたなぁ)

食レポで「おいし~~い」というのは当然のことで、「おいしくな~い」と言ったら問題だ。ならば、どう美味しいのかを説明する言葉をプラスするべきだと思う。

さらに、「うまい」「あまい」「やわらかい」この三つの言葉さえ使いこなせば、食レポはほとんどOKといわれている。テレビの食レポは映像に助けられカメラで映せば一瞬でその様子がわかるため、この三語を使えば一応レポートしたことにはなるのだ。

甘じょっぱい

最近耳につく言葉は「甘じょっぱい」

辞書にも載っているが、もともとは関東圏の方言だといわれている。自分の辞書にはない言葉だったので、どんな味を表現する時に使うのかネット検索してみた。

「甘辛い」のかと思いきや、ニュアンスは少し違うようだ。食レポで使われている「甘じょっぱい」は、「本当に甘じょっぱい味を理解して使っているのか」という疑問が生まれた。

単に「食レポでよく聞くし、便利に使っちゃおう」というのならアウトかな。

ChatGPTにも聞いてみた(ちょっと寄り道)

Chat君は「甘じょっぱい」についてどう答えてくれるのか聞いてみたらところ、おもしろい答が返ってきた。「甘い味としょっぱい味が混ざったような味」という解説のあと、「この表現は、食べ物や飲み物だけでなく、物ごとや人の性格などに用いることがある。例えば、関係性が甘くても同時に微妙に複雑さを持っている場合や、人の性格が親しみやすい一方で、どこか距離を感じさせる場合などにつかわれることもある。」物ごとや人の性格に「甘じょっぱい」を使うとは予想外の回答だった。

それにしても、Chat君はいったいどこでこの情報を見つけてきたのか。

「甘じょっぱい人間関係」、自分はこれからも使わない言葉だとは思うが、覚えておくことにした。

言葉(語彙)を増やすには

自分が受け持つレポーターやインタビュアーの研修では、使える言葉の幅を広げることを意識して教えている。研修の一つとして、公園などへ行き風景を切り取って時間内にまとめてレポートすることや、テーブルの上に置いたペットボトルを言葉で表現する課題などをおこなう。また、仮想インタビューで、話の流れに合わせて言葉をつないでいく研修などもあり、言葉が思うようにつなげない状況と、もどかしさも体験してもらう。

こうして、自分自身で「咄嗟に言える言葉の多さ少なさを自覚すること」は、とても大きい。

この研修を何回か繰り返していくうちに、どこかで聞いたことがある言葉、脳のどこかで眠っていた言葉が目覚めて使用可能になる。そうなってくると言葉同士が関係性を理解し、応用しつつボキャ貧からの脱出に成功する。

言葉を使う仕事は、使える言葉を成長させていかなければ自信につながらない。

食レポと言葉

テレビの食レポは視聴者も映像を共有するため、「うまい」「甘い」「やわらかい」だけでも伝わるかも知れない。
でも、より美味しく感じさせるには、もう少し言葉を効果的に使ってほしいと思う。映像と食レポの豊かな言葉がぴったり合った時は、きっと、視聴者も手を止めて画面に見入っているはずである。

余談

この原稿はWordで書いているが、「甘じょっぱい」と書かれた部分は、全部 赤の波線が表示されており煩わしかった。Wordでは「甘じょっぱい」という言葉は、最後までミスタイピング扱いだった。誰か教えてあげて。