若者ことば界隈

言葉のおもしろさ

先日、BJ FOXスタンダップコメディーのライブに行った。

 観客いじりの天才であるBJは、今回も開演時間より少し前にステージに登場し、満員の客席を温めようと最前列に座る親子(おしゃれなワンピースに大きなサングラスをかけた母親と、飾りっ気のまったくない娘さん)に話しかけた。サングラスの母親に「会場暗いのに、なんでサングラスかけているの」と質問。

すると、となりに座る娘さんが「インバウンドに間違えられたいのです。いつも中国の爆買いマダムと勘違いされて喜んでいます」と即答。この答えにBJは、この女子大生はいじりやすいなと判断したようで彼女に次の質問の矢を放った。

「名古屋城の金鯱は、なぜ城の屋根にあるのか?」(BJは名古屋初ライブ)彼女は少し考えてから「鯱は海の生き物だから、それを屋根に飾ることで火事にならないということです。知らんけど!」 この「知らんけど」の一言でライブ会場は大爆笑の渦。BJ FOXはその雰囲気を味方につけてライブをスタートさせた。

最近の若者言葉の一つである「知らんけど!」がリアルに使われた場面に初めて遭遇し、「そうか、こうやって使うのか」と妙に納得した。

 言葉は生きものであり、時代のニーズに合わせて新たに生まれ、変化を繰り返す。特にそれぞれの時代で若者たちが使う「若者言葉」は、変化に富んでいて興味は尽きない。

そこで今回は、最近気になった「若者ことば界隈」について。

界 隈

 「界隈」という言葉はZ世代やSNSで使われ始め、今では「〇〇界隈」というハッシュタグが便利に使われている。ここで使われる「界隈」は、辺り近所・付近という意味ではなく、特定の話題や趣味、コミュニティーを表すときに使い、2024年流行語大賞にノミネートされていた。

例えば、「推し活界隈」は、推し活の話題が中心のコミュニティーを表し、「アニメ界隈」はアニメ好きの集まりを指している。「界隈」という言葉からは、強い絆や縛りではなく、ざっくりとした緩やかな仲間意識を感じさせるので、フワッとして使いやすいのかも知れない。

困ったのは「風呂キャンセル界隈」。お風呂に入るのが面倒くさいから先延ばしにするか、キャンセルするか・・・・の心境を表しているようだけど、お風呂には入ろうよ!

推し

 「最近の日本経済はインバウンドと『推し活』が回している」と話す人もいる。インバウンドはともかくとして、「推し活」は確実に日本経済を数センチ引き上げているのではないか。大好きなものや人を指す「推し」という言葉、ひと昔まえなら「贔屓」「憧れ」「命」「大ファン」とかを使っていた。「あなたの推しはだれ?」「私は箱推し」「あの店の推しラーメンはトンコツ」「うちの会社は推し活休暇あり」など、若者言葉からカジュアルな普通の会話に溶け込んでしまったように感じる。

「推しのコンサートに行くために仕事を頑張り、推しグッズを大量買い」「推しのためなら日本全国どこまでも!旅費を貯めるぞ!」こんな話題には事欠かない。日本経済を数センチ引き上げているような熱量は弊社のスタッフからも感じる。ちなみに、うちの会社は「推し活休暇」の取得はOKです。

てえてえ

 思わず笑ってしまったのは「てえてえ」という言葉。新しいオノマトペと思いきや、「尊い」という意味で、感情が高ぶって言葉にならないほど「尊い」と感じた時に使うらしい。例えば「推しのメイキングビデオはカッコよすぎて『てえてえ』」。これも「尊い」という言葉の強さを「てえてえ」と変換して軽やかにしている。

*「尊い(とうとい)」のどこをどう変換すると「てえてえ」になるのか、

*発音は平板?頭高?尾高?

しゃべり手としては、この二点が気になったかな。

知らんけど

 もともと関西出身の「知らんけど」は、関西弁アクセントで言うことで話が柔らかくなる。BJ FOXに「知らんけど」と返していた女子大生は関西出身と言っていたから、まさに正統派「知らんけど」だった。関西弁の「よう知らんけどなぁ」という言い方はよく耳にするが、若者言葉の「知らんけど」は言い放ち型。軽いジョークや軽いオチで話を柔らかく終わらせたいときや、自分の意見に自信がない時などにとても便利だ。

でも、まじめな話の締めには使用禁止。信用をなくす恐れあり。

若者ことば界隈

 いつの時代も若者言葉は生まれ、同世代の仲間同士で分かり合える言葉として広がり、やがて消えていく。しかし、時代は変わっても若者言葉に共通するのは「響きのおもしろさ」「短縮・省略の妙」「ユーモアのセンス」などのエッセンスが含まれていることなのではないか。

今は、インターネットやSNSを通じて新しい言葉が急速に広がるので、その昔、若者だった我々も若者言葉に触れる機会は多い。柔軟な発想から生まれた若者たちの言葉(遊び)を楽しめるのは、とてもラッキーだと思う。これからもチェックは欠かせない。

ただ、若者でない我々が、知っているふりをして使うと滑るので、要注意!

余談

 ChatGPTに質問をすると詳しい答えを出してくれる。しかし「ChatGPTの回答は必ずしも正しいとは限りません。重要な情報は確認するようにしてください。」という一文も表示される。

これは「知らんけど」ってこと・・・?